サステナビリティ

トップメッセージ

社会との信頼関係を経営の根幹に据え、
持続可能な社会づくりに向けた責任を果たしていく

社長就任にあたって

2024年6月に代表取締役社長に就任した松本です。この重責を引き継ぐにあたり、歴代経営陣により連綿と受け継がれてきた「住友の事業精神」を大切にし、社会との信頼関係を経営の基軸に置くことをお約束いたします。1987年に入社して以来35年以上が経ちますが、振り返れば、その大半を製造現場で過ごしてきました。なかでも、2006年から2年間はフィリピンの工場での勤務、帰国後にはニッケル工場で工場長を務めるなど、それぞれの現場において貴重で得難い経験を積むことができました。このように、「ものづくり」の現場が長かったこともあり、当社グループの競争力の源泉である「ものづくり力」にこだわりたいと考えています。

社会と事業の両視点から特定した重要課題への取り組みを推進

当社グループでは、長期ビジョンの実現に向けた「2030年のありたい姿」を定めるにあたり、社会と事業の両視点から評価し、それぞれに影響度が大きい11項目の重要課題(マテリアリティ)を設定しています。

2023年度は、このうちいくつかの重要課題で大きな進捗がありました。まず、「気候変動」については、2050年までのカーボンニュートラル実現に向けた「中間目標とロードマップ」を策定・公表しました。重油・石炭からLNG・バイオマス燃料への燃料転換を軸に、温室効果ガス(GHG)排出削減に寄与する技術開発なども織り交ぜて、新たに設定した「2030年度にGHG排出量を2015年度比38%以上削減」の達成を目指します。

「非鉄金属資源の有効活用」に関しては、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の構築に向けて、リチウムイオン二次電池リサイクルプラント建設に着手しました。EV(電気自動車)の使用済みバッテリーから希少な非鉄金属を回収し、再びバッテリーの原料として供給する「Battery to Battery」を推進するものです。また、資源調達の段階においても、より短時間かつ低い環境負荷でのリチウム回収を可能にする「直接リチウム抽出法(Direct Lithium Extraction:DLE)」の実証実験を開始しました。

この他にも、「重大環境事故」の防止に向けて、国際規格であるGISTM(Global Industry Standard on Tailings Management)に沿った尾鉱ダムの適切なマネジメントに注力しています。また、「サプライチェーンにおける人権」の観点から「責任ある鉱物調達」も重視しており、当社製錬所において第三者認証を受けるのはもちろん、サプライチェーン全体でのマネジメントをより一層強化していきたいと考えています。

加えて、私が強く意識している重要課題として「多様な人材」および「人材の育成と活躍」があります。非鉄金属の安定供給という使命を果たすためには、「ものづくり力」を支える人的資本の拡充が不可欠です。2023年度に見直した総合職人事制度のもと、社内公募制度(キャリアチャレンジ制度)の活用やキャリア採用を通じて組織を活性化させるとともに、多様な人材が活躍できる自由闊達な組織風土づくりを推進していきます。

継承すべき「住友の事業精神」と「ソーシャルライセンス」への意識

住友の事業精神と共に伝わる「自利利他公私一如」という言葉は、元来、「住友の事業は、住友自身を利すると共に、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない」との精神を示しており、今日の社会で求められる「サステナビリティ経営」と相通じるものがあります。

当社グループが長期ビジョンに掲げる「世界の非鉄リーダー」を実現するうえでも、事業を通じて社会課題の解決に積極的に寄与する姿勢を欠かすことはできません。その一例として、われわれ人類にとって喫緊の課題となっている気候変動対策への貢献があります。当社グループが生産する銅やニッケル、コバルトといった非鉄金属は、再生可能エネルギー関連設備やEVなど、気候変動対策につながる分野において、さらなる需要増が見込まれます。優良な鉱山が減少して資源確保の難易度が高まる中、これらの資源の安定供給を維持し、持続可能な社会づくりに貢献することは、当社グループの責務といえるでしょう。

一方で、資源産業は大規模開発を伴うため、地域社会に及ぼす影響も大きくなります。このため、開発時に環境・社会へのマイナス影響を極力抑えるのはもちろんのこと、将来事業を終えたあとのことも含めて地域社会から「ソーシャルライセンス(社会的操業許可)」を得ることが事業継続の大前提になります。私自身の経験に照らせば、かつてフィリピンの工場立ち上げに携わった際に、地域住民の方々との対話がいかに重要かを体感し、当社グループの事業は資源のある地域の理解や協力があってこそ成り立つものだということを改めて強く意識しました。

入社以来、折に触れて教わってきた住友の事業精神と共に、これまでの現場での学びから、私は「地域社会との共存共栄」こそ、当社事業の根幹に置くべきものと考えています。社会情勢や事業環境が急激に変化する現在では、従来の取り組みの延長だけでは不十分な場合もあるでしょう。その様な変化を確実に見据え、社会の要請に応じた新たなソーシャルライセンスが必要になることも視野に入れ、今後の経営にあたっていく所存です。

前述したフィリピン時代の業務経験で実感したように、経営においては「社会との信頼関係」を築きながら事業を継続していくことが何よりも重要です。当社グループの持続的な成長には、地域社会はもとより、幅広いステークホルダーの皆様から「信頼を得、事業を任せていただく」ことが不可欠であるとの認識のもと、これからも社会に対する責任を果たしていく所存です。

本レポートは、当社グループのサステナビリティ経営の取り組みをより広くご理解いただくことを目的に発行したものです。ステークホルダーの皆様との対話を深め、皆様と共に持続可能な社会づくりに取り組むための一助となれば幸いです。

代表取締役社長
松本 伸弘