水リスクおよび生物多様性に関するリスクへの対応
使用する水の管理(リスク管理)
水は地域の共有資源であり、周辺住民の生活や地域社会と密接に関わっているとともに、周囲の生態系にも関係します。当社グループは、水リスクについてWWF Water Risk Filterを用いて特定し、水リスクを低減するとともに、利用する水域の地域社会や環境に配慮し、限りある水資源の有効利用に責任を持って取り組んでいます。
例えば、フィリピン・パラワン島にあるコーラルベイニッケル(CBNC)では、乾季に水不足になりやすい地域にあることから、尾鉱ダムに貯まった上澄み水をリサイクル施設で処理し、製錬工程で再使用するほか、工業用水としてサプライヤーである石灰スラリー製造会社へ供給するなど水資源の有効利用に取り組んでいます。また、水に関する地域社会への貢献活動として、上水道の設備提供とその維持管理や、必要に応じて飲料水をタンクローリーで提供しています。同社の環境管理活動の部署であるEnvironmental Management Office(EMO)と地元行政、NGOなどから構成されるチームは、工場の操業が周辺の水域に重大な影響を与えていないか定期的に水質検査を行い、排水による環境負荷の低減に努めています。
なお、当社グループの水管理については、CDP水セキュリティ質問書に毎年回答しています。2023年度はこれまでの当社の水に対する考え方をまとめ、「住友金属鉱山グループ 水に関する方針」を制定して社内外に公開し、社員への浸透も図りました。
取り組み事例
- 取水源別取水量の把握による過剰取水の防止
- リサイクル水・リユース水の使用促進による取水量および排水量の削減
- 水バランスの把握と使用量の最適化による水の有効利用促進
- 排水中の有害化学物質の水域への排出量削減による環境負荷の低減
- 事業場周辺における水生生物モニタリング調査による生物多様性保全の推進
- 水へのアクセスが困難な地域におけるインフラ整備の推進
水および生物多様性に関するリスクの特定
2024年1月17日、ICMMから「Nature Position Statement」が発表されました。ICMMの会員企業である当社は、コミットメント(遵守事項)として、2026年までに優先地域での事業に関する自然への依存と影響の診断およびリスクと機会の評価を、2030年までに重要なバリューチェーンのカテゴリおよび課題の特定ならびに重要側面のパフォーマンス目標および目的の策定を行います。
2023年度は、事業拠点において従来から実施している植林、生物多様性保護活動を継続しつつ、自然関連財務情報開示タスクフォース(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:TNFD)の提言を含め自然への取り組みや関連情報開示への対応を検討するためのワーキンググループを環境保全部会の下に設置しました。
2023年度には、当社グループ事業全体の自然への依存と影響について、TNFDが推奨するENCOREを用いて分析を行い、その評価結果をもとに同じく推奨ツールであるIntegrated Biodiversity Assessment Tool (IBAT)、Global Forest WatchおよびWRI Aqueduct – Water Risk Atlasを用いて、各事業拠点の自然資本への影響度について分析を行っています。
リスクへの対応(工場建設時における環境負荷の低減)
フィリピンでのCBNCおよびTHPALプラント建設においては、計画段階からフィリピン国政府や自治体、地元住民と十分な話し合いを持ち、使用する硫酸やメタノールを受け入れるための桟橋をサンゴ礁を迂回して設置し、排水口の位置もサンゴ礁の保護に配慮するなど、環境負荷の少ないプラント建設を実施しました。
両社ともに環境管理活動の部署として、EMOを設けています。EMOによる環境調査、および環境天然資源省、自治体、NGOなどで構成されるチームにより、定期的に水質や大気、動植物に対するサンプル調査を実施しています。こうした環境モニタリングを通じて、工場の建設・操業が生態系に重大な影響を与えていないことを確認し、排水などによる環境負荷を最小限に抑えています。
これまでの取り組みによりフィリピン環境天然資源省による鉱物産業環境大統領賞(PMIEA)をCBNCは9回、THPALは3回受賞しています(2014~2023年)。